【病気解説】⑯ 高血圧性眼症(散瞳する猫)
猫の眼底出血は、高血圧や慢性腎不全などの健康問題に起因することが多く、早期の診断と治療が重要です。

眼底出血の原因
猫の眼底出血は、主に以下のような原因によって引き起こされます:
- 高血圧: 高血圧は猫の眼において特に影響を及ぼしやすく、眼底の毛細血管が損傷を受けることで出血が発生します
- 慢性腎不全: 高齢の猫に多く見られる慢性腎不全は、二次性高血圧を引き起こし、これが眼底出血の原因となることがあります
- 甲状腺機能亢進症: この病気も高血圧を引き起こし、眼底出血のリスクを高めます

症状
猫の眼底出血の症状には、以下のようなものがあります:
- 瞳孔の異常(散瞳など)
- 目の充血や赤み
- 視力の低下や異常行動(物にぶつかるなど)
診断方法
眼底出血の診断には、以下の手順が含まれます:
- 眼底検査: 獣医師が眼底を直接観察し、出血の有無を確認します
- 血圧測定: 高血圧の有無を確認するために、血圧を測定します
治療法
治療は、出血の原因に応じて異なりますが、一般的には以下のような方法が取られます
- 降圧薬の投与: 高血圧が原因の場合、降圧薬を使用して血圧を管理します
- 基礎疾患の治療: 慢性腎不全や甲状腺機能亢進症など、根本的な病気の治療も重要です
予防
定期的な健康診断や血圧測定を行うことで、早期に高血圧やその影響を発見し、適切な治療を行うことが可能です。特に高齢の猫では、定期的な眼科検査が推奨されます
猫の眼底出血は深刻な健康問題であり、早期の発見と治療が視力を守るために重要です。猫の健康状態に注意を払い、異常を感じた場合はすぐに獣医師に相談することが大切です。
高血圧性眼症は、全身の動脈血圧(いわゆる血圧)が上昇することで、眼球内の細い動脈が傷害されて発症します。高血圧性眼症には、さらに細かく「高血圧性網膜症」「高血圧性脈絡膜症」「高血圧性視神経症」などの症状があります。
高血圧性網膜症について
網膜の細動脈が侵されると、網膜浮腫や網膜出血、軽度の網膜剥離(漿液性網膜剥離)などが起こります。これを高血圧性網膜症と呼びます(図1)。症状が軽度な場合は眼の外観に変化はなく、視覚障害も認められません。しかし、慢性的に進行すると網膜の変性が進み、視覚が徐々に低下していきます。

高血圧性脈絡膜症について
網膜の外側に存在する脈絡膜の細動脈が傷害を受けると、そこから水分が漏れ出し、網膜と脈絡膜の間に貯留して大きな網膜剥離(胞状網膜剥離)が発生します。これを高血圧性脈絡膜症と呼びます(図2)。
多くの場合、両眼が同時に突然発症します。高血圧性脈絡膜症は進行が速く、視覚障害も明瞭に現れます。ネコちゃんでは網膜の変性が人間やワンちゃんよりも速く進むため、治療の開始が遅れると、網膜剥離が治癒しても視覚が回復しないことがよくあります。

高血圧性視神経症について
高血圧性脈絡膜症に伴い、視神経機能が消失することも一般的です。脈絡膜の動脈から血液の供給を受ける視神経が虚血状態になることで発症し、瞳孔が完全に散瞳することで判断できます。これを高血圧性視神経症と呼びます(図3)。

その他の網膜症について
その他の網膜症として、虹彩(ひとみ)に動脈瘤が形成され、出血がみられることがあります(図4)。多くは高血圧性網膜症に随伴してゆっくりと進行し、視覚に大きな影響を与えません。しかし、症状が重い場合には、ぶどう膜炎や緑内障が続発し、視覚を障害することがあります。特別な眼科検査を行わなくても、高血圧症を疑う重要な症状であるため、見落とさないよう注意が必要です。

原因
全身性高血圧症が起こる原因として、ネコちゃんでは慢性腎臓病が一般的です。
以下のようなさまざまな腎疾患が、高血圧症の原因となります。
- 慢性間質性腎炎
- 多発性嚢胞腎
- 糸球体腎炎
- 腎盂腎炎
- アミロイド腎症 など
その他にも、全身性疾患に伴って発生することがあります。
- 甲状腺機能亢進症
- 副腎皮質機能亢進症
- 高アルドステロン症(副腎腫瘍)
- 先端巨大症
- 糖尿病 など
ただし、甲状腺機能亢進症を除くと発生はかなり稀です。
また、貧血治療に用いられるエリスロポエチンの注射後に高血圧症が起こることも報告されているため、注意が必要です。
こんな症状があったら要注意
クレアチニンが高い
先に述べたように、高血圧症による目立つ症状は末期まで現れません。一般の動物病院では、身体検査に血圧測定や精度の高い眼底検査がまだ十分に組み入れられていないのが現状です。そのため、ご家族が気付きやすい指標の一つとして、血液検査のクレアチニン値の変化があります。クレアチニンは腎臓の機能を反映する指標であり、その値が高い場合、腎機能の低下が疑われます。
クレアチニンが1.6mg/dlを超えている、あるいは基準値内でも以前より高くなっている場合は、腎機能が低下しつつある可能性があります。クレアチニン値が2.0mg/dl前後であっても、「まだ大したことはない」と考える獣医師もいますが、実際にはこの程度のクレアチニン値のネコちゃんで高血圧性眼症を発症しているケースが多いことを覚えておきましょう。
また、高血圧症になるとクレアチニン値はわずかに低下する傾向があります。つまり、高血圧症のネコちゃんでは、クレアチニン値以上に腎機能が低下している可能性があるのです。さらに、画像診断で腎臓の形態異常が見つかったり、尿検査で尿タンパクやミクロアルブミンが検出された場合も、高血圧症の発症を疑うべきでしょう。
瞳孔が開きっぱなし
ネコちゃんの瞳孔は、明るいところでは細くなり、暗いところでは大きく丸く開きます。しかし、高血圧症によって視神経が傷害されると、環境の明暗に関わらず、瞳孔は(普段以上に)大きく開いたままになります(図3)。この症状がみられる場合、すでに視覚がほぼ消失していることが多いため、緊急事態と言えます。血圧も相当高くなっていることが多く、神経症状が現れることもあるため、できるだけ早く治療を開始することが必要です。

瞳孔の中が赤く見える
高血圧性網膜症が進行すると、変性した網膜動脈が破れて出血が起こります。出血がわずかな場合は網膜内の点状出血にとどまり、眼底検査でしか確認できません。しかし、出血の量が多くなると硝子体内に血液が拡散し、瞳孔内に血液を含む硝子体が見えるようになります(図5)。この段階でも視覚が消失していないこともありますが、すぐに治療を開始する必要があります。

瞳に赤いものが見える
高血圧が起こると、瞳(虹彩)の表面に存在する血管に動脈瘤ができることがあります。初期の動脈瘤は赤い点として視認できますが(図4)、次第に大きくなり、血管内の液体成分が漏れ始めると、白いモヤのようなものが見えるようになります。動脈瘤はやがて破裂して出血し、角膜の内側が赤く濁って見えるようになります(図6)。


角膜が白く濁る
瞳(虹彩)の血管が傷害され、血管内の水成分が漏れ出すと、時間の経過とともに虹彩と角膜、あるいは瞳と水晶体の間に癒着が起こります。この癒着により眼内の水(眼房水)の排出が妨げられ、眼圧の上昇(続発性緑内障)が発生します。緑内障が続発すると角膜は白濁し(図7)、眼球の拡大や眼の痛みが生じるようになります。

ネコちゃんの「高血圧症」に対しては、カルシウムチャネル遮断薬のアムロジピンが第一選択薬であり、網膜を復位させて視覚を回復させることのできる唯一の薬剤です。その他にも血圧を下げる効果を持つ薬は多く、高血圧症の管理には有効とされていますが、アムロジピンのように高血圧性眼症を改善させることはできません。アムロジピンを内服すれば、250mmHgを超える収縮期血圧が数日のうちに160mmHg以下となることも珍しくありません。
ネコちゃんの全身性高血圧症の多くは慢性腎臓病が原因であり、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(以下、ACEI)やアンジオテンシン受容体拮抗薬(以下、ARB)の使用は理にかなっています。しかし、これらの薬剤のみで正常血圧に戻すことは現実的には困難です。前述のとおり、ネコちゃんでは網膜剥離による網膜変性が急速に進行するため、試験的にACEIやARBを投与することは予後に悪影響を及ぼす可能性が高く、避けるべきです。国内外を問わず、眼科専門医はアムロジピンを用いてネコちゃんの高血圧性眼症の治療を行うのが一般的です。

注意点
アムロジピンの単独投与で副作用が起こることは稀ですが、併用する点滴や循環器系の薬剤によっては、副作用(低血圧、反射性頻拍、食欲低下、低カリウム血症、浮腫、高窒素血症)が起こりやすくなるため、注意が必要です。また、慢性腎臓病のすべての病期(ステージ)において、降圧治療が腎機能を悪化させる可能性があるため、治療開始後は定期的に身体検査や血液検査を受けるべきです。特に慢性腎臓病のステージが進行するほど、その危険性が増すことも意識しておく必要があります。
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